2012年5月10日木曜日

特集2:小児ぜんそく/子どものうちに治しきる/発作の治療から予防の治療へ


松本一郎
石川・城北病院小児科

 小児ぜんそくは「小児気管支ぜんそく」ともいい、呼吸困難などの発作を繰り返す病気です。日本では小児の3%、外国では10%以上と報告され、ありふれた慢性疾患のひとつですが、最近10年間で2〜3倍にも増えています。

 発症は1〜2歳が多く、小学校入学までに発症する人が大半。症状が落ち着くまで平均10年、7割の人が成人までに症状がなくなります。

気道が炎症を起こして

 ぜんそく患者の気道(気管・気管支など空気の通り道)は、常にアレルギー性の炎症を起こしているため表面の粘膜がはがれ落ちて神経が露出し、敏感になっています。そのためダニやかぜ、気温気圧の変化などさまざまな原因(表1)に気道が反応し、発作が起きるのです。

 発作が起きると気管支の筋肉が縮み粘膜がはれて気道が狭まります。また、粘膜がいっそうはげ落ちて神経が刺激され、炎症が強まり、「発作が発作を呼ぶ」悪循環に陥ります。

 炎症が長期間続くと気管支が硬くなって気道が狭まり、戻らなくなります。ぜんそくが治っても呼吸機能が低いおとなになってしまいます。

軽度の症状を重視する

 そうならないための、いちばん確実な方法が「徹底的な予防」です。現在ぜんそく治療は「発作の治療」から、発作を起こさない「予防の治療」の継続へと重点が移っています。

 従来、小児ぜんそくの重症度は「軽症・中等症・重症」と分類されていました。しかし最近は国際的な分類法を取り入れて「間欠型・軽症持続型・中等症持続型・重症持続型1・重症持続型2」(表2)とされ、見落とされがちだった軽度の症状を重視しているのが特徴です。

 よく「ある季節に限って発作をおこして吸入・点滴をする」人がいますが、従来は「軽症」でした。しかし新しい分類では「中等症持続型」「軽症持続型」とされ、継続的な治療が必要とされています。この点にも、小さな症状も放置せず、しっかり予防するという治療の流れが現れています。注意したいのは「発作は軽いものから重いものまである」ことです。「ちょっと胸がおかしい」「息をするのが変」という程度から、「会話もできない」「意識を失う」「呼吸が止まる」ものまであります。


2年間の乳癌の腫瘍摘出手術後の乳房の痛み

 「苦しいものだけが発作ではない」と肝に銘じるべきです。でないと、軽い発作を見落とします。軽い発作すら見逃さないことが「徹底的な予防」の第一歩です。

発作の程度を評価する

 発作時は、発作の程度(表3)を評価しましょう。まず呼吸状態、そして発作時のサイン、緊急事態のサインの有無をチェックします。

 【呼吸状態】喘鳴(息がゼーゼー、ヒューヒューする)の程度は? 離れたところでも聞こえるか、背中に耳を当てると聞こえる程度でしょうか。

 ただ、喘鳴の大きさが発作のひどさと比例するとは限りません。喘鳴が小さくてもかなり強い発作のときがあります。次の「発作時のサイン」とあわせて判断しましょう。

 【発作時のサイン】陥没呼吸(みぞおちや肋骨の間などがへこむ)、鼻翼呼吸(鼻がピクピク)、起座呼吸(横になれない)などは、呼吸に努力を要する状態になっているサインです。必ずチェックを。喘鳴が強くないのに発作時のサインが強いのは、非常に危険な状態です(図1)。

 【緊急事態のサイン】次のようなサインがあれば、すぐ病院へ。

▽話が十分できない。問いかけてもうなずいたり「ウン」という程度。▽鼻翼呼吸や陥没呼吸が目立つ。

▽横になれない(起座呼吸)。

▽暴れる、あるいはグッタリする。

▽咳き込みが激しい、あるいは吐く。

▽顔色が酸素不足で青白くなる。頭痛、吐き気も訴える。

▽汗をかく。▽喘鳴がかなり強い。

▽逆に、非常に苦しがっているのに喘鳴が小さいときは、かなり重症。

▽いつもならよく効く薬が効かない、あるいは効果がすぐなくなる。

▽乳児はひどくぐずることが、意識状態の変化の初期サインの場合も。

家庭で対応できる範囲は

 家庭でどの程度の発作まで対応できるかは、自宅に吸入器があるかとか、親の対処力などでも違います。

 吸入器がある場合、30分おきに2回吸入して、それでも発作が治まらなければ、すぐ病院に行きましょう。ハンドネブライザー(携帯用吸入器)でも吸入は2回まで。それで治まらない発作は病院での治療が必要です。

 2回吸入するのは、病院で治療を受けるべきかどうかを早く判定するためです。病院で治療すべき発作に自宅で対応してはいけません。

 【ピークフローメーターの活用法


アイルランドにきびの治療

 ピークフローメーター(息を吸って思い切り吐いたときの速さ=ピークフローを測る器具)を使うと、判断するのに役立ちます。

 ピークフローが自己ベストの80%以下ならまず吸入を。1回目の吸入で症状が消え、かつピークフローが80%以上になるようなら、ようすを見ます。1回目の吸入効果が不十分(ピークフローが80%以下、または80%以上になっても症状がある)なら、30分後に再度吸入を。2回目の吸入後も中発作以上(表3)ならすぐ病院へ行ってください。

 小発作以下になってもピークフローが50%以下なら病院へ。50%以上であってもその後の状態をよく観察します。吸入がさらに必要だと判断したら病院へ行きます。

 小発作レベルでも発作が長く続く場合は、吸入を繰り返すだけでは症状はとれません。この状態から抜け出すには、ふだんの治療内容を変え、時間をかけて対処するしかなく、病院を受診すべきです。すぐによくしようと焦り、自宅で3回、4回と吸入を繰り返すのはダメです。

 夜に悪化しなくても、朝になっても症状がとれない場合は早めに受診を。夜寝られなかったからと寝かせ、夕方受診するのは症状を長引かせたり悪くするだけです。

普段も症状をよく観察

 徹底した予防には、ふだんから症状(特に咳)を観察することが必要です。

▽朝・夕・夜に軽い咳や喘鳴がないか▽はしゃぎ回ったり、運動したときは?▽気温の変化(急な冷え込み、冷たい空気を吸ったとき)は?▽季節の変わり目は?▽かぜのときゼーゼーいわないか▽強い刺激のにおい(花火など)や、外泊のときは?

 ふだんの状態を知る上で、日常生活と症状の記録(ぜんそく日記)が大切です。発作が起きたら、(1)発作の前触れはなかったか(2)どうして発作が起きたのか(3)発作の経過はどうだったか、この3点に注意して記録してください。診断にも役立ちます。

 発作の前触れがわかれば、発作を未然に防ぐことができます。ピークフローメーターを活用すれば、さらに情報が得られます。薬の効果なども記録されていれば、症状だけの評価よりも客観的にぜんそくの状態がわかり、薬を減量・中止したときの影響もわかります。

 図2は鼻の症状と呼吸機能の関係を示す例です。ぜんそく日記だけでは、3日前の鼻づまりが発作と関係あるとは気がつきません。しかしピークフローとぜんそく日記を重ね合わせると、発作を予告する前触れだったことがはっきりします。鼻づまりがあってからピークフローが徐々に低下し、発作が起きています。


神経質な執着

 ピークフローが徐々に下がっていたのに本人には自覚症状がないことにも注意してください。症状だけでは呼吸機能の低下がわからないということです。

 また、発作がなくなってもピークフローはすぐには改善していませんね。症状は治まっても呼吸機能は悪い状態が続くのです。発作後は注意が必要だということです。

発作を起こさない環境を

 治療の3本柱は環境整備・鍛錬・薬物治療です。環境整備と鍛錬は基本中の基本。重症度に関係なく、どの患者にも必要な日常の課題です。

 【環境整備】日常吸い込んでいるわずかな量のダニのフン・死骸が気道の炎症を招き、発作を引き起こします。気道の炎症を起こさないためにふだんの対策が重要です。

 ダニの繁殖条件は、(1)湿度60〜75%の湿気 (2)フケ、食ベカス、カビなど、ダニの餌がたくさんある (3)ダニのすみかがあることです。この組み合わせを崩すことが必要です。

 アレルギー的に理想的な部屋が図3です。湿度は55%以下に。寝具には週1回、できれば2回、ゆっくりと掃除機をかける。寝室は毎日掃除を。寝室に空気清浄機を設置。ペットは絶対寝室に入れない、など。

 ペットのアレルギー物質は毛ではなく、尿や唾液に溶け出している物質です。非常に細かく空中をいつまでも漂い、粘着性が強く、飼い主の服、家具、じゅうたんなどに付いています。寝室に入れると、寝室全体がアレルギー物質で汚染されます。

 タバコは止めるか、外で吸うしかありません。タールが壁に付着してホコリを増やすためです。喫煙者のいる家庭はホコリが多いことはよく知られた事実で、換気扇の下で吸っても無意味です。

 【鍛錬】水かぶり、乾布摩擦、薄着、スポーツなど。気管支の平滑筋も自律神経によってコントロールされているため、皮膚を鍛えたり運動したりして自律神経を鍛えることが、ぜんそくの症状緩和や予防に役立つといわれています。スポーツによっては発作を誘発しやすいものもありますが、予防薬を使えば他の人と同じようにできます。医師と相談しましょう。

まず薬でコントロールして

 【薬物治療】薬の進歩で格段にコントロールしやすくなりましたが、ぜんそくを治す薬はなく、長期戦であることに変わりはありません。


 患者がふだん使う薬は、おもに基本治療薬と追加治療薬にわけられます。重症度にあわせて使い、症状が一定期間(少なくとも3カ月)出なければ追加治療薬から減らし、基本治療薬だけでのコントロールをめざします。次に基本治療薬を減らし、最終的に薬を中止するのが治療の流れです。基本治療薬でのコントロールはかなり長期で、ぜんそく日記・ピークフローや、呼吸機能の検査などを参考にして調節します。

 「小児気管支喘息管理・治療ガイドライン2005」では、中等症持続型の場合で6カ月から1年コントロールされれば基本治療薬を中止。重症持続型では数年以上のコントロール後に同様に中止し、症状が悪化しないか慎重に観察します。

 私たちの病院では、気道の敏感さの程度を治療薬の減量・中止の判断材料として重視しています。薬を使って症状がない「軽快」の段階で気道過敏性検査をします。過敏性が改善していたら薬を減らし、高まっていたら症状はなくても薬の増強を考えます。過敏性が高い状態で薬を減量・中止すると、遅かれ早かれ症状が悪化する危険性が高いからです。

千里の道も一歩から

 症状がなくなるとぜんそくがよくなったと思い、自分の判断で薬を減らしたり、やめる人がいます。しかしぜんそくの重症度は、症状ではなく、コントロールするために必要な薬や対策でわかるのです。吸入ステロイド剤でよくなっている人は、吸入ステロイド剤が必要なひどさだということです。勝手に薬を減らしたり中断すると、「軽快」にさえなかなかたどりつきません。

 当面の目標は、薬を使って、発作が起きない「軽快」です。次の段階が、薬をやめても症状がない「寛解」で、寛解が5年続くと「治癒」です。千里の道も一歩から。まずは「軽快」をめざしてがんばりましょう。

*くわしくは筆者の共著『小児喘息患者学入門』(合同出版、1400円)を参照してください。記事中の図表も同著から。



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